豆類を基軸とする和菓子の原料体系
和菓子の食材を語る際に欠くことのできない存在として、豆類が挙げられます。
特に小豆(あずき)は、餡の主要構成要素として極めて重要な役割を果たしており、専門家の間では「ショウズ」という呼称も使用されるほど、独自の地位を確立しているのです。
小豆という名称自体が大豆との対比によって生じたものであり、古来より日本では赤色の小豆に魔を祓う陽力が存在するという信仰が根づいていました。
主要豆類の産地分布と特性
現在、国内流通における小豆の約90%が北海道産であることが知られています。
丹波や備中といった伝統的産地も存在しますが、生産量では北海道が圧倒的優位にある状況です。
小豆以外にも、手亡、大福豆、白小豆など、複数の豆類品種が和菓子製造において活用されており、それぞれ異なる食感や風味の特徴を有しているため、菓子の種類に応じた使い分けが実施されています。
| 豆類の種類 | 主な用途 | 特徴 |
|---|---|---|
| 小豆(あずき) | 餡、赤飯 | 最も一般的な和菓子用豆類 |
| 大納言 | 高級餡、豆菓子 | 粒が大きく、煮崩れしにくい |
| 白小豆 | 白餡 | 希少性が高く、淡白な甘味 |
| 手亡 | 白餡 | 繊細な口当たりを実現 |
| 大福豆 | 煮豆、白餡 | 大粒で柔らかい食感 |
豆類の加工方法は多岐にわたり、粒餡、こし餡、つぶし餡など、製法の相違によって全く異なる食感や風味を生み出すことが可能となっています。
穀類加工品の精緻な分類体系
和菓子における穀類利用の複雑性は、米の加工形態の多様性に顕著に現れています。
米にはうるち米ともち米という基本的な二分類が存在し、さらにそれぞれが生粉と加熱後粉末化という処理方法によって性質を大きく変化させるのです。
うるち米系加工粉の種別
うるち米を生のまま粉砕した上新粉は、しこしことした独特の歯応えを菓子に付与します。
挽き方や粒子径の調整により、同じうるち米からでも上用粉のような極めて繊細な質感の粉を製造することができ、これにより和菓子職人は求める食感に応じた素材選択が可能となっています。
一方、もち米を生粉化した白玉粉やぎゅうひ粉は、餅特有の粘性と弾力性を活かした菓子に不可欠な存在です。
アルファ化米粉の機能分化
もち米に水分を加えて加熱することでアルファ化させてから粉末化する製法により、寒梅粉(焼きみじん粉)、道明寺粉、上南粉といった特殊な粉類が生産されています。
寒梅粉は、もち米を水洗・浸漬後に蒸し、搗いて餅状にしてから焼成し粉砕するという極めて複雑な工程を経ており、上南粉は同様の過程で焼成工程を省略したものとなります。
道明寺粉はもち米を蒸して乾燥または焼成後に粗挽きしたもので、桜餅などに特徴的な粒状感を与えているのです。
| 粉の種類 | 原料米 | 製法の特徴 |
|---|---|---|
| 上新粉 | うるち米 | 生米を粉砕、歯応えのある食感 |
| 上用粉 | うるち米 | 上新粉よりも微細な粒子 |
| 白玉粉 | もち米 | 生もち米を水挽き製粉 |
| 寒梅粉 | もち米 | 蒸し→搗き→焼成→粉砕 |
| 道明寺粉 | もち米 | 蒸し→乾燥→粗挽き |
| 上南粉 | もち米 | 寒梅粉の焼成工程を省略 |
米や小麦以外にも、そば、きび、粟といった雑穀類が和菓子に使用される状況があり、これらは大地の恵みを直接的に反映した素材群として認識されています。
糖類における和三盆の特異性
和菓子に使用される甘味料の中でも、和三盆糖は特筆すべき存在です。
四国の徳島県および香川県の限定的な地域で栽培される竹糖と称される在来品種のサトウキビを原料とし、通常のサトウキビと比較して茎が細く、単位面積あたりの収量が著しく低いという特性を持っています。
和三盆製造における研ぎ工程
竹糖の搾汁を加熱濃縮し、白下糖と呼ばれる結晶と蜜の混合物を生成した後、この白下糖を麻布と木綿布を重ねた布に包み、「押し舟」と称される加圧機構で糖蜜を圧搾します。
その後、少量の水を加えて手で練る「研ぎ」作業を実施することにより、砂糖粒子が微細化し、さらなる糖蜜の除去が促進されるのです。
伝統的製法では盆の上で3回の研ぎ作業を行っていたことから「和三盆」という名称が付与されたとされ、この工程によって独特の口溶けと上品な甘味が実現されています。
和三盆糖は完全精製された白砂糖とは異なり、少量の糖蜜を残すことで黒糖に似た微かなコクを保持しつつ、グラニュー糖のような洗練された甘味も併せ持つという、二律背反的な特性を有しているのが大きな特徴です。
海藻由来の凝固剤と果実類の活用
羊羹製造に不可欠な寒天は、天草などの海草煮汁を凍結乾燥させて製造されるゲル化剤であり、ところてんと同一の原料から生成されています。
江戸時代に余剰のところてんを戸外に放置したところ、夜間の凍結と日中の融解を繰り返すことで海草特有のアクが水分とともに流出し、乾燥状態となったものに再び水を加えて煮ると凝固したという偶然の発見から、寒天が誕生したと伝承されているのです。
果実類の歴史的位置づけ
栗と柿は、和菓子において極めて重要な果実として扱われています。
栗は縄文時代から栽培が行われており、茶の湯文化の発展に伴い、焼き栗や打栗として、また栗粉を甘味で練った団子状の菓子として用いられてきました。
柿も古代から食用とされ、干柿として保存性を高めることで飢饉時の非常食および貴重な甘味源となり、平安時代の『延喜式』には祭礼用菓子として記載が確認されています。
桃、梨、蜜柑、梅などの果実も形状の模倣や香気の活用という形で和菓子に取り入れられており、榧、胡桃、栃といった木の実も、複雑なアク抜き工程を経て菓子材料として利用されてきた歴史があるのです。
- 栗:縄文時代からの栽培史を持ち、茶巾絞りなど現代の菓子にも継承
- 柿:干柿として保存性向上、祭礼用途としての記録あり
- 栃の実:複数工程のアク抜きを経て餅に混入、先人の知恵の結晶
- 芥子・胡麻:種子類として独特の風味と食感を付与
芋類および補助的食材群の役割
芋類は和菓子の歴史において重要な位置を占めており、平安時代や鎌倉時代には甘葛を加えた芋粥が菓子として摂取されていたという文献記録が残存しています。
自然薯、大和芋、仏掌薯(つくねいも)、薩摩芋などが薯蕷饅頭、羊羹、煉切餡などに使用され、それぞれ異なる粘性や風味を菓子に付与しているのです。
その他にも、生姜や牛蒡などの根菜類、薄荷やシナモンといった香辛料が和菓子に使用されており、自然界から得られる多様な恵みが和菓子という食文化を支えています。
食物繊維が豊富で低カロリーという特性を持つ寒天をはじめ、これらの食材は栄養学的観点からも評価されつつ、伝統的な味覚と食感の形成に寄与し続けているのです。